この記事の要点
- AI(人工知能)が、便ごとの事故リスクを確率と確信度つきで判断し、予兆のある便を運行管理者に知らせます。
- 運行管理者は、事故の後に原因を振り返る立場から、危うい便に事前に声をかける立場へ変わります。
- 物流会社は、運行記録などのCSV(表形式のデータファイル)から始め、3〜8週のPoC(本格導入の前に効果を確認する試行)で、ヒヤリハットの件数などの指標を測ります。
配送事故AIは、運行する便ごとの事故リスクをAIが判断し、危うい便を予兆の段階で運行管理者に知らせる仕組みです。この仕組みは、クラスフォックスが設計した Vertical Decision AI SaaS(SaaS:インターネット経由で利用するソフトウェア)の一つです。運行管理者や配車係、物流会社の経営層の判断を支えます。本記事では、運行管理の現場で起きていること、AIが判断すること、導入後の1日、AIに任せる範囲の決め方、小さく始める手順を順に解説します。
運行管理で起きていること:事故のあとに振り返る難しさ
多くの物流会社では、運行管理者が点呼、運行指示、日報の確認を毎日行っています。事故やヒヤリハット(事故になりかけた出来事)が起きたときには、運行管理者がドライブレコーダーの映像や日報を見直し、原因を探して再発防止策をまとめます。

この振り返りは必要な作業ですが、起きた事故を防ぐことはできません。事故のあとに分かるのは、その便がなぜ危うかったかという事実です。運行管理者が事故の前にその危うさに気づく機会は、多くありませんでした。
危うさの手がかりは、実は日々の記録の中にあります。長時間の運行が続いた運転手、納品時間が詰まった便、慣れていない経路、急な天候の変化などです。しかし、これらは別々の帳票やシステムに散らばっています。運行管理者が全便の記録を横に並べて見る時間は、現実にはほとんどありません。
その結果、運行管理者は経験と勘で「あの運転手は最近疲れていそうだ」と気を配ることになります。経験豊富な運行管理者がいる間は成り立ちますが、その知識は担当者の頭の中にしか残りません。担当が代わったとき、後任者が同じ水準で目を配り続けることは難しくなります。

配送事故AIが判断すること
AIが判断するのは「事故リスク」です。判断のパターンでいえば「リスク・異常の検知」にあたり、AIは「危険か、異常か」という問いに答えます。AIは、運行ごとの記録を手がかりに、事故につながりかねない便を、人が見る前に見つけ出します。
Decision AI は、文章を生成するのではなく、業務の判断だけを確率と確信度つきで返すAIです。配送事故AIでは、次の3つの型で答えを返します。
| 答えの型 | この業務での問い |
|---|---|
| はい/いいえ | この便は、出発前に運行管理者が声をかけるべき便か |
| どれを選ぶか | 危うさの要因は、運転時間・納品の詰まり・経路・天候のどれが中心か |
| どの程度か | この便の事故リスクは、どの程度か |
答えが型で返ってくるため、運行管理者は、点呼の場で確認する順番や運行指示の見直しにその答えをそのままつなげられます。運行管理者が全便を一から見るのではなく、AIが示した危うい便から確認する流れに変わります。
導入後の運行管理者の1日
たとえば、複数の拠点から日々多くの便を出す、中規模の運送会社を考えます。
朝、運行管理者は点呼の前に、その日の便の一覧を画面で確認します。一覧は事故リスクの高い順に並び、それぞれに確信度と、危うさの中心となる要因が表示されます。運行管理者は、上位の便の運転手に、点呼の場で休憩の取り方や経路の注意点を伝えます。
日中は、天候の変化や渋滞による遅れなど、運行の状況が変わります。AIは状況の変化を受けて、リスクの見立てを更新します。運行管理者は、更新で上位に上がってきた便の運転手にだけ連絡を入れ、無理に到着時刻を追わないよう伝えます。
夕方、運行管理者は日報を確認し、AIが危ういと見た便で実際に何があったかを記録します。ヒヤリハットがあったか、なかったかという結果は、次の判断を見直す材料になります。運行管理者の作業は、事故のあとに原因を探す作業から、予兆を捉えられたかを確認する作業へと軸足が移ります。

AIに任せる範囲をどう決めるか
AIの答えには確信度が付きます。企業は、この確信度によって、どこまでをAIに任せ、どこから人が判断するかを定めます。事故は人の命に関わるため、最終的な判断は、常に人の承認を前提に設計します。
- 確信度95%以上:運転時間の超過など、基準に照らして明らかな条件が重なった便です。AIが運行管理者への通知を自動で出します。
- 確信度70〜95%:要因が複数あり、見立てに幅のある便です。運行管理者が内容を確認してから、運転手への声かけを決定します。
- 確信度70%未満:新しい経路や初めて運行する運転手など、過去の記録が少ない便です。運行管理者の上長や安全の担当者が判断します。
この閾(しきい)値は最初から固定せず、PoCで検証して定めます。はじめはすべての便について、AIの見立てと運行管理者の判断を並べて比較し、どの程度一致するかを確認してから、任せる範囲を広げます。

小さく始める手順
いま使っている運行管理のシステムやデジタルタコグラフ(運行の記録装置)は入れ替えません。AIはその上に重ねる「判断レイヤー」として導入され、企業はまず手元のCSVから始められます。
- 担当者が、運行記録、日報、ヒヤリハットの記録をCSVで書き出します。対象は、1つの拠点や1つの路線に絞ります。
- 担当者が、AIの見立てと運行管理者の判断を机上で比較します。この段階では、運転手への声かけは変更しません。
- 運行管理者は、見立てが一致した範囲から実際に声かけに使い、指標の変化を確認します。
PoCの期間は3〜8週が目安です。企業は期間中に、次の指標を測ります。
- ヒヤリハットの件数
- 事故の件数
- AIが危ういと見た便と、実際の出来事との一致度
- 運行管理者が確認に使う時間
- 声かけの回数と、その内容
目標とする値は、PoCの前に現状を測ってから、クラスフォックスと企業が一緒に定めます。効果を確認できた範囲を広げ、ほかの拠点や業務へ展開していく進め方です。業務の判断を一つずつAIに任せていくことが、AX(AIトランスフォーメーション)の現実的な一歩です。クラスフォックスの Vertical AI SaaS は、初期費用0円・月額10万円(税別)から、1業務単位で始められます。

物流・倉庫の判断を支えるほかのAI
配送の現場には、事故のほかにも、毎日繰り返される判断があります。たとえば、遅れそうな便に先回りして手を打つ「配送遅延AI」、車両と運転手の組み合わせを先に出す「AI配車」、間違えやすい荷を出荷前に確認する「誤配送AI」などです。どの判断から始めるかは、現場で判断に迷う時間が長い業務から選ぶのが近道です。
よくある質問
いま使っている運行管理のシステムは入れ替える必要がありますか
入れ替える必要はありません。AIは既存のシステムの上に重ねる判断レイヤーとして導入され、企業はまず書き出したCSVで始められます。
どのようなデータが必要ですか
運行記録、日報、ヒヤリハットの記録が基本です。まずは手元にある範囲で始め、PoCの中で欠けているデータを確認します。
どのくらいの期間で試せますか
PoCは3〜8週が目安です。クラスフォックスと企業は、週ごとに結果を見ながら、進め方と任せる範囲を一緒に判断します。
トップ画像の写真:Photo by Bhargav Panchal on Unsplash
本記事で紹介する活用シーンは、クラスフォックスが設計した活用構想です。効果は、貴社のデータを使ったPoCで確かめます。
この記事を読んだ方へ