転びやすい兆しを職員が先に捉える「転倒リスクAI」の介護現場での活用シーン

この記事の要点

  • AI(人工知能)が、利用者ごとの「転倒可能性」を確率と確信度つきで判断し、職員が先に寄り添うべき方を知らせます。
  • 介護現場は、転倒が起きてから見守りを増やす進め方から、転びやすい兆しの段階で職員が動く進め方へと変わります。
  • 施設は、手元の記録のCSV(表形式のデータファイル)から始め、3〜8週のPoC(本格導入の前に効果を確認する試行)で、見守りの優先順位の妥当性などを測ります。

転倒リスクAIは、利用者がいつ転びやすい状態にあるかをAIが判断し、職員が先に寄り添う見守りの優先順位を示す仕組みです。この仕組みは、クラスフォックスが設計した Vertical Decision AI SaaS(SaaS:インターネット経由で利用するソフトウェア)の一つです。介護施設の施設長、フロアリーダー、看護職員、介護職員の判断を支えます。本記事では、介護現場で起きていること、AIが判断すること、導入後の1日、AIに任せる範囲の決め方、小さく始める手順を順に解説します。

転倒が起きてから見守りを増やす介護の困りごと

多くの介護施設では、転倒が起きた後に、職員が事故報告書を書き、原因を振り返り、見守りを増やす対応を取ります。この流れ自体は必要ですが、利用者が骨折や入院に至ってからの対応になる点が課題です。

職員は、普段から利用者の様子を気にかけています。しかし、夜間は少ない人数で多くの居室を担当するため、職員は全員を同じ密度で見守ることができません。ベテランの職員は「今日はあの方の足取りが違う」と感じ取りますが、その感覚は個人の経験に頼っており、勤務が変わると引き継ぎきれないことがあります。

転倒の背景には、足腰の状態、服薬の変化、睡眠、トイレに行く頻度、環境の変化など、多くの要因が重なります。記録には残っていても、職員が複数の記録を横断して見る時間は限られます。その結果、兆しの段階で気づく機会を逃しやすくなります。

転倒が起きてから見守りを増やす介護と、転倒リスクAIの導入後の、先に寄り添う介護を左右に並べた比較図
図1:見守りを増やす時期が、転倒の後から、転びやすい兆しの段階に変わります。

転倒リスクAIが判断すること

AIが判断するのは「転倒可能性」です。判断のパターンでいえば「リスク・異常の検知」にあたり、AIは「危険か、異常か」を見分けます。AIは、転びやすい状態にあるかどうかを、利用者ごとに確率と確信度つきで返します。

AIは、日々の介護記録、歩行や移乗の状況、服薬の変更、睡眠やトイレの記録など、施設がすでに持っている記録を手がかりに判断します。Decision AI は文章を生成するのではなく、定めた型どおりの答えを返します。この業務では、AIが次の3つの型で答えを返します。

答えの型この業務での問い
はい/いいえこの利用者は、今日、転びやすい状態にあるか
どれを選ぶか見守りを強める場面は、移乗・トイレ・夜間の起床のうちどれか
どの程度か利用者ごとの転倒可能性の高さと、見守りの優先度

答えが型で返ってくるため、職員は申し送りや見守りの計画にそのまま使えます。職員が全員の記録を一から読み返すのではなく、AIが示した優先順位を見て、職員が現場の様子と照らし合わせて決定する流れに変わります。

導入後の介護現場の1日

たとえば、入所定員が数十名の特別養護老人ホームの1フロアに、転倒リスクAIを使い始めた場合を考えます。

朝の申し送りで、フロアリーダーが画面を開きます。画面には、転倒可能性の高い順に利用者が並び、それぞれに確信度と、判断の手がかりとなった記録が示されています。たとえば、昨夜の起床回数が増えた方や、新しい薬に変わった方が上位に上がります。フロアリーダーは、上位の方への声かけを担当の介護職員に割り当てます。

日中、介護職員は、示された方の移乗やトイレの誘導のときに、いつもより一歩近くで寄り添います。介護職員は、歩行の様子を見て気づいた点を、通常の記録に残します。看護職員は、服薬の変更があった方について、ふらつきの有無を確認します。

夕方、フロアリーダーはその日の見守りを振り返ります。AIが上位に挙げた方のうち、実際にふらつきがあった方と、特に変化がなかった方を確認し、次の日の判断に生かします。また、夜勤の職員には、見守りを強める時間帯と対象を申し送ります。夜間の少ない人数でも、見守りの優先順位が明確になります。

朝、日中、夕方、夜勤の4つの時間帯で、介護現場の見守りの流れを順に示した図
図2:朝から夜勤までの流れ。AIの優先順位を見て、職員が現場の様子と照らし合わせたうえで動きます。

AIに任せる範囲をどう決めるか

AIの答えには確信度が付きます。施設は、この確信度によって、どこまでをAIの提案に沿って進め、どこからを職員が判断するかを定めます。

  • 確信度95%以上:条件が明確で、影響の小さい通知です。たとえば、AIが見守りの一覧に自動で並べ、担当の職員に知らせます。
  • 確信度70〜95%:転倒可能性が高いと示された利用者です。フロアリーダーや看護職員が内容を確認し、見守りの強め方を決定します。
  • 確信度70%未満:記録が少ない新規の利用者や、状態が大きく変わった利用者です。看護職員や理学療法士などの専門職、施設長が判断します。

この閾(しきい)値は、最初から固定しません。PoCで検証して定めます。利用者の身体拘束につながるような対応や、ケアの方針を変える判断は、AIには任せず、人の承認を前提に設計します。はじめはすべての答えを職員が確認し、AIの答えと職員の判断がどの程度一致するかを検証してから、任せる範囲を広げます。

確信度の0%から100%の目盛りを、70%未満、70から95%、95%以上の3段階に分け、それぞれの任せ方を示した図
図3:閾値はPoCで検証して定めます。ケアの方針に関わる判断は、人の承認を前提とします。

転倒リスクAIを小さく始める手順

施設がいま使っている介護記録のシステムは、入れ替えません。AIは既存のシステムの上に重ねる「判断レイヤー」として導入され、施設はまず手元のCSVから始められます。

  1. 担当者が、介護記録のシステムから利用者ごとの記録(歩行・移乗・服薬・睡眠・トイレなど)と過去の転倒の記録をCSVで書き出します。対象は1つのフロアなどに絞ります。
  2. 担当者が、AIの示した優先順位と職員の見立てを机上で比較します。この段階では、現場の見守りは変更しません。
  3. 職員は、見立てと合った範囲から実際の見守りに取り入れ、指標の変化を確認します。

PoCの期間は3〜8週が目安です。施設は期間中に、次の5つの指標を測ります。

  • AIが上位に挙げた利用者と、実際に転倒した利用者の一致の度合い
  • 転倒に至った件数
  • ヒヤリハット(転倒しかけた場面)の報告件数
  • 見守りの優先順位に対する職員の納得度
  • 申し送りにかかる時間

目標とする値は、PoCの前に現状を測ってから、現場と相談して定めます。効果を確認できた範囲を広げ、ほかのフロアや業務へ展開していく進め方です。業務の判断を一つずつAIに任せていくことが、AX(AIトランスフォーメーション)の現実的な一歩です。クラスフォックスの Vertical AI SaaS は、初期費用0円・月額10万円(税別)から、1業務単位で始められます。

記録の書き出し、机上での比較、現場への取り入れと測定という3つの手順を矢印でつないだ図
図4:既存の介護記録のシステムはそのままに、一つずつ確認しながら進めます。

介護・福祉の判断を支えるほかのAI

介護の現場には、転倒のほかにも、毎日繰り返される判断があります。たとえば、注意して見るべき利用者を挙げる「ケアリスクAI」や、記録の中の変化を見つける「記録異常AI」があります。職員の配置を検討する「シフト配置AI」や、訪問の順番を決定する「訪問介護ルートAI」もあります。どの判断から始めるかは、現場で判断に迷う時間が長い業務から選ぶのが近道です。

よくある質問

いま使っている介護記録のシステムは入れ替える必要がありますか

入れ替える必要はありません。AIは既存のシステムの上に重ねる判断レイヤーとして導入され、施設はまず記録を書き出したCSVで始められます。

どのようなデータが必要ですか

日々の介護記録、歩行や移乗の状況、服薬の変更、過去の転倒の記録が基本です。まずは手元にある範囲で始め、PoCの中で欠けている記録を確認します。

どのくらいの期間で試せますか

PoCは3〜8週が目安です。クラスフォックスと施設は、週ごとに結果を見ながら、進め方と任せる範囲を一緒に判断します。

トップ画像の写真:Photo by Jenya Shportiak on Unsplash

本記事で紹介する活用シーンは、クラスフォックスが設計した活用構想です。効果は、貴社のデータを使ったPoCで確かめます。

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