契約書の危ない条項をAIが見つける「契約リスクAI」の活用シーン

この記事の要点

  • AIが、契約書の条項ごとに「注意すべき条項かどうか」と、そのリスクの程度を判断します。
  • 法務の担当者は、条文を頭から読んで危ない箇所を探す審査から、注意すべき条項から読み込める審査に変わります。
  • 手元の契約書の一覧と、過去の審査結果のCSVから始め、3〜8週のPoCで審査にかかる時間などを測ります。

契約リスクAIは、契約書の各条項に潜むリスクをAIが判断し、注意すべき条項を担当者に知らせるしくみです。クラスフォックスが設計した Vertical Decision AI SaaS の一つで、弁護士や企業の法務担当者の審査を支えます。本記事では、契約審査の現場で起きていること、AIが判断すること、導入後の1日、AIに任せる範囲の決め方、小さく始める手順を順に紹介します。

契約審査の現場で起きていること

契約審査では、法務の担当者が契約書を頭から順に読み、自社に不利な条項や曖昧な表現を探します。取引先から届く契約書は、売買、業務委託、秘密保持、賃貸借など多岐にわたります。担当者は、種類ごとに確認すべき点を思い出しながら読み進めます。

この進め方では、契約書の長さがそのまま審査の負担になります。定型的な条項が大半を占める契約書でも、担当者は全文を同じ集中力で読まなければなりません。重要な条項は後半に置かれていることもあり、疲れた状態で読むと、見落としが起きる可能性が高まります。

審査の質が、読む人の経験に左右されることも課題です。経験の長い担当者は、損害賠償の範囲や解除の条件を見ただけで危ない箇所に気づきます。一方で、経験の浅い担当者は、どこを重点的に読むべきかの判断に時間がかかります。その結果、依頼が特定の担当者に集まり、審査が滞る原因になります。

案件が重なると、審査の順番も問題になります。重要な契約書も定型的な契約書も、届いた順に読み始めることが多く、本来は急ぐべき案件が後回しになる場合があります。法務部門の責任者は、審査の中身を見ないまま、優先順位を決めることになります。

契約審査が、条文を頭から読む運用から、注意すべき条項から読む運用に変わる比較図
図1:条文を頭から読む審査から、注意すべき条項から読み込む審査へ

契約リスクAIが判断すること

契約リスクAIが判断するのは「条項リスク」です。判断のパターンでいえば「リスク・異常の検知」であり、問いは「危険か、異常か」です。AIは契約書を条項ごとに分け、それぞれの条項について、注意が必要かどうかと、その程度を判断します。

AIは、条項の文言、契約の種類、自社の標準的な条項の書きぶり、過去に担当者が修正した箇所の記録などを手がかりに判断します。Decision AI は文章を生成するのではなく、業務の判断だけを確率と確信度つきで返すAIです。したがって、AIは契約書を書き換えず、どの条項にどの程度の注意が必要かを答えるだけです。

答えの型この業務での問い
はい/いいえこの条項は、自社にとって注意が必要か。人の確認が必要か
どれを選ぶかこの条項のリスクは、どの種類に当たるか(責任の範囲、解除、期間、権利の帰属など)
どの程度かこの条項のリスクの大きさと、確認の優先度

答えが型で返ってくるため、担当者はリスクの大きい条項から順に読み進められます。AIが出した結果を、担当者が最終的に確認する流れで運用します。契約の締結に関わる最終判断は、人の承認を前提に設計します。

導入後の契約審査の1日

たとえば、取引先から届く業務委託契約書の一次審査から使い始めた法務部門を考えてみます。

朝、法務の担当者は審査待ちの契約書の一覧を開きます。各契約書には、AIが判断した条項リスクの大きさが付いており、注意すべき条項の数も一目で分かります。担当者は、リスクの大きい契約書から順に着手します。

日中、担当者は一件の契約書を開き、AIが注意を示した条項から読み込みます。損害賠償の上限や、契約の解除の条件など、リスクの種類も条項ごとに示されます。担当者は、条項の前後の文脈を確認し、修正案を作るか、そのまま受け入れるかを判断します。注意の付かなかった条項は、通読せずに流し読みで確認します。

夕方、法務部門の責任者は、その日に審査を終えた契約書の件数と、AIの判断と担当者の判断が食い違った条項を確認します。食い違いの理由を担当者から聞き取り、翌日以降の運用に反映します。このふり返りが、AIの判断を現場に合わせて育てていく土台になります。

朝の着手順の確認から夕方のふり返りまで、契約審査の1日の流れを示した図
図2:導入後の契約審査の1日(朝・日中・夕方)

AIに任せる範囲をどう決めるか

AIの答えには確信度が付きます。この確信度で、どこまでをAIに任せ、どこからを人が判断するかを決めます。

  • 確信度95%以上:自社の標準的な書きぶりと一致する秘密保持の条項など、判断の根拠が明確な条項です。担当者の確認を簡略にして、通常の処理に進めます。
  • 確信度70〜95%:損害賠償や解除の条件など、契約によって意味が変わる条項です。法務の担当者が内容を確認してから判断します。
  • 確信度70%未満:前例の少ない取引や、特殊な条件を含む条項です。法務部門の責任者や、弁護士などの専門家が判断します。

この閾値は、最初から決め打ちにせず、PoC(本格導入の前に効果を確かめる試行)で確かめて決めます。はじめは、すべての条項について担当者がAIの判断を確認し、判断が一致する割合を見ながら、任せる範囲を段階的に広げます。

確信度の3段階と、それぞれの段階で契約の条項を確認する人を示した図
図3:確信度に応じて、確認する人を分ける

契約リスクAIを小さく始める手順

企業は、いま使っている契約管理のシステムやファイル管理のしくみを入れ替える必要がありません。AIは既存のシステムの上にのる「判断レイヤー」として入り、まずは手元のCSVから始められます。

  1. 担当者が、過去に審査した契約書の一覧と、条項ごとの審査結果(修正した、そのまま受け入れたなど)をCSVにまとめます。対象は、業務委託契約など一つの種類に絞ります。
  2. AIの判断と、担当者の過去の判断を机上で比べます。この段階では、実際の審査の流れは変えません。
  3. 判断が一致する範囲を確認し、実際の審査に取り入れて、指標の変化を確認します。

PoCの期間は3〜8週が目安です。期間中は、次の5つの指標を測ります。

  • 1件の審査にかかる時間
  • 注意すべき条項の見落としの件数
  • AIの判断と担当者の判断が一致する割合
  • 担当者が読み込む条項の数
  • 審査の待ち時間

目標とする値は、PoCの前に現状を測ってから、企業と一緒に定めます。業務の判断を一つずつAIに任せていくことが、AX(AIトランスフォーメーション)の現実的な一歩です。

手元のCSVの準備から実際の審査への取り入れまで、小さく始める3つの手順を示した図
図4:小さく始める手順(CSVの準備、机上での比較、審査への取り入れ)

法務の判断を支えるほかのAI

法務の現場には、条項のリスクのほかにも、毎日くり返される判断があります。たとえば、定型の秘密保持契約を修正すべきかどうかを判断する「NDA AI」や、債権の回収を進める順番を判断する「債権AI」です。いずれも、同じ判断レイヤーの考え方で、担当者の判断を支えます。

よくある質問

いま使っている契約管理のシステムはそのまま使えますか

そのまま使えます。契約リスクAIは既存のシステムを入れ替えず、その上にのる判断レイヤーとして入ります。まずは手元のCSVから始められます。

AIが契約書の最終判断まで行うのですか

いいえ、行いません。AIが返すのは条項ごとのリスクの判断と確信度です。契約の締結に関わる最終判断は、担当者や専門家の承認を前提に設計します。

どのくらいの期間で試せますか

PoCの期間は3〜8週が目安です。一つの契約の種類に絞り、過去の審査結果のCSVで判断の一致する範囲を確認してから、実際の審査に取り入れます。

トップ画像の写真:Photo by Olena Kholina on Unsplash

本記事で紹介する活用シーンは、クラスフォックスが設計した活用構想です。効果は、貴社のデータを使ったPoCで確かめます。

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