ケアリスクAIとは?介護施設で要注意利用者をAIが挙げる活用構想

この記事の要点

  • ケアリスクAIは、介護・福祉の現場で「今、注意が要る利用者はどなたか」をAIが確率と確信度つきで判断します。
  • 気になる方を職員の記憶や申し送りに頼る状態から、AIが候補を挙げ、職員が確かめる状態へ変わります。
  • 始め方は、手元のCSVから。PoCは3〜8週が目安で、既存の記録システムは入れ替えません。

ケアリスクAIは、介護・福祉の施設で「要注意利用者」をAIが判断し、注意の要る方を職員が確かめられるように挙げるしくみです。この記事では、現場で何が困りごとになっているか、AIが何を判断するか、導入後の1日がどう変わるか、小さく始める手順までを順に説明します。業務の判断を一つずつAIに任せていくことが、AX(AIトランスフォーメーション)の現実的な一歩です。

介護の見守りが職員の記憶頼みになる困りごと

介護施設では、利用者お一人おひとりの状態が毎日少しずつ変わります。食事の量、夜間の眠り、歩き方、表情、排泄の様子。どれも小さな変化ですが、転倒や体調悪化の前ぶれであることがあります。

勤務の交代のたびに、職員の気づきが申し送りで途切れやすくなるようすを示した図

ところが、その変化に気づく役目は、多くの施設で職員の記憶に支えられています。「最近あの方は少し元気がない気がする」という感覚が、申し送りやひと言の声かけで伝わっていく形です。

この方法には、よい面もあります。長く関わる職員の観察は、数字に表れない手がかりを拾えるからです。一方で、次のような弱点があります。

  • 勤務の交代や休みをまたぐと、気づきが引き継がれにくい。
  • 利用者の人数が多い日は、声の大きい出来事に注意が向き、静かな変化が埋もれやすい。
  • 経験の浅い職員は、何を気にすればよいかの目安を持ちにくい。
  • 記録は残っていても、複数の記録を見比べる時間が取れない。

つまり「気になる利用者」は、記録の中にヒントがあっても、人の注意力と時間の範囲でしか拾えていません。ここに、記録を横断して見るAIの出番があります。

ケアリスクAIが判断すること

ケアリスクAIが判断するのは、「要注意利用者」です。判断のパターンは「リスク・異常の検知」で、問いは「危険か、異常か」。文章を作るAIではなく、業務の判断だけを確率と確信度つきで返すDecision AIとして働きます。

介護記録をもとにケアリスクAIが3つの答えの型で判断し、職員が確かめる流れを示した図

答えの型は3つあります。この業務での問いに置き換えると、次のようになります。

答えの型この業務での問い
はい/いいえこの利用者は、今週、特に注意が要る状態か
どれを選ぶか注意の理由は、転倒・食事・睡眠・気分の変化のどれが中心か
どの程度か注意の度合いは、どのくらい高いか

大切なのは、AIが「診断」や「ケアの決定」をしないことです。AIが挙げるのは、見直しの候補です。ケアの内容を決めるのは、いつでも職員と専門職です。最終判断が必要な業務なので、人の承認を前提に設計します。

日々の記録から注意の度合いが少しずつ上がり、目安の線を超えると候補に挙がることを示したグラフのイメージ

介護現場の1日で見る、要注意利用者の候補の使い方

たとえば、定員の多い入所施設を考えてみます。施設には介護職員、看護職員、生活相談員、ケアマネジャーがいて、ケア記録は既存の記録システムに入っているとします。

朝・日中・夕方・週に一度の4つの場面で、職員が要注意利用者の候補をどう使うかを示した図

朝の始業前、フロアリーダーは、AIが前夜までの記録から挙げた候補の一覧を開きます。一覧には、注意の度合いの高い順に利用者が並び、理由の種類も添えられています。

申し送りの場では、一覧を見ながら「この方は食事の記録が数日続けて少なめです」と共有します。これまでは、気づいた職員が口頭で伝えるだけでした。いまは記録という根拠が、全員の手元にそろっています。

日中、介護職員は、候補に挙がった方をいつもより丁寧に見ます。声かけの回数を増やす、水分の様子を確かめる、歩行の場面に付き添う。AIが示すのは「見る順番のヒント」であり、実際の観察と判断は職員が行います。

看護職員は、体調に関わる理由の候補をまとめて確認します。必要があれば、かかりつけ医や家族への連絡を検討します。連絡するかどうかの判断は、看護職員が自分で行います。

夕方、フロアリーダーは、候補の方々について「実際に何があったか」を一覧に返します。注意が必要だった、問題なかった、別の理由だった。この返しが、次の判断の精度を確かめる材料になります。

生活相談員やケアマネジャーは、週に一度、同じ一覧から「ケアプランを見直す候補」を拾います。気づきが個人の記憶ではなく、施設の共有の記録として残る点が、人の入れ替わりに強い運用につながります。

AIに任せる範囲を確信度で決める方法

Decision AIは、答えに確信度をつけて返します。この確信度で、どこまでをAIに任せ、どこから人が見るかを決めます。ふつうの目安は次のとおりです。

確信度が95%以上は自動で処理、70〜95%は担当者が確認、70%未満は上長・専門家へという3段階を示した図
  • 95%〜:自動で処理します。介護の見守りでは、たとえば「候補一覧に載せる」「記録に印をつける」といった、人の判断を先に進めるだけの処理に限ります。
  • 70〜95%:担当者が確認します。フロアリーダーや看護職員が、理由と記録を見て、見守りを強めるかどうかを決めます。
  • 〜70%:上長・専門家へ回します。看護師長や施設の医療・ケアの責任者が、複数の情報とあわせて見直します。

この閾値(しきいち)は、決まった数字ではありません。PoCで実際の記録に当てはめて確かめ、施設の人員や方針に合わせて決めます。

なお、介護の現場では、利用者の安全に関わるため、自動で処理する範囲は最小限に絞るのが基本です。「見逃さないこと」を優先するのか、「候補を絞りすぎないこと」を優先するのか。その配分も、PoCの中で職員と一緒に決めていきます。

似た判断を担うAIと、組み合わせの考え方

同じ「リスク・異常の検知」のパターンは、ほかの業務にもあります。ケアリスクAIの考え方は、施設の中の別の判断にも広げられます。たとえば、夜間の見守り、服薬の確認、ヒヤリハットの再発防止など、「危険か、異常か」を問う場面です。

最初から広げる必要はありません。まず1つの判断で職員が使いこなし、確かめた結果をもとに、次の判断へ進むのが現実的です。

ケアリスクAIを小さく始める手順

始めるときは、既存の記録システムを入れ替えません。その上にのる「判断レイヤー」として、手元のCSVから始められます。

対象を決め、CSVを出し、過去の事例と突き合わせ、PoCで確かめ、広げるかを決める5つの手順を示した図
  1. 対象を決めます。1つのフロアや1つのユニットなど、小さな範囲を選びます。
  2. 手元のデータを出します。ケア記録、食事・水分・排泄・睡眠の記録、事故・ヒヤリハットの記録などをCSVにします。
  3. 過去の「あのとき注意が必要だった」という事例と、記録を突き合わせます。
  4. PoCで、AIが挙げた候補を職員が確かめ、閾値を調整します。期間は3〜8週が目安です。
  5. 使い勝手と、測る指標を確かめたうえで、対象の範囲を広げるかどうかを決めます。

PoCで測る指標は、数値の目標ではなく、確かめる項目として決めます。たとえば、次のようなものです。

  • AIが挙げた候補のうち、職員が「確かに注意が必要だった」と判断した割合
  • 職員が気づいていたのにAIが挙げなかった事例の数
  • 申し送りや記録の見直しにかかる時間の変化
  • 職員が候補の一覧を実際に見た頻度
  • 職員が感じる、見守りの負担や安心感の変化

導入の形は、業界特化のAI SaaSとして、1業務から小さく始めて育てるものです。初期費用は0円、月額は10万円(税別)からです。使いながら、施設の用語や帳票に合わせて育てていきます。

よくある質問

今使っている介護記録システムは、そのまま使えますか

はい、入れ替えは不要です。既存のシステムの上にのる判断レイヤーとして入れ、記録のCSVを出すところから始められます。

データはどれくらい必要ですか

最初は、手元にある記録で構いません。PoCの中で、使えるデータと足りないデータを確かめながら、必要な範囲を決めていきます。

どのくらいの期間で試せますか

PoCの期間は3〜8週が目安です。対象の範囲や、データの整い方によって変わります。

トップ画像の写真:Photo by Claudia Love on Unsplash

本記事で紹介する活用シーンは、クラスフォックスが設計した活用構想です。効果は、貴社のデータを使ったPoCで確かめます。

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