敵キャラクターの戦術をAIが選ぶ「Enemy Battle AI」の活用シーン

この記事の要点

  • AIが、戦闘中の状況に応じて、敵キャラクターが次にどの戦術を取るかを判断します。
  • プレイヤーは、決まった手順で攻めてくる敵ではなく、パーティの弱点を突いて戦い方を変える敵と戦うことになります。
  • 戦闘ログのCSVで始め、3〜8週のPoCで、敵の戦術の多様さや難易度のばらつきなどを測ります。

Enemy Battle AIは、パーティの編成や残りの体力などの戦闘状況から、敵キャラクターが次に取る戦術をAIが判断し、敵の動きを変えていくしくみです。クラスフォックスが設計した Vertical Decision AI SaaS の一つで、RPGやタクティカルゲームの開発者、バトル設計の担当者、運営チームの判断を支えます。本記事では、敵の行動設計で起きていること、AIが判断すること、導入後の開発チームの1日、AIに任せる範囲の決め方、小さく始める手順を順に紹介します。

敵キャラクターの戦術が単調になりやすい理由

RPGやタクティカルゲームの敵は、多くの場合、あらかじめ決めた行動パターンで動きます。たとえば「体力が半分を下回ったら強い技を使う」「3ターンごとに全体攻撃をする」といった条件を、バトル設計の担当者が一つずつ書き込んでいきます。

この方法は、動きが予測しやすく、調整もしやすいという利点があります。一方で、プレイヤーは数回戦うと手順を覚えます。パーティの編成が変わっても、敵は同じ順番で同じ技を出し続けるため、戦闘が作業になりやすくなります。

敵の動きを増やそうとすると、条件分岐が急速に増えます。パーティの職業、装備、状態異常、残りのMP(魔法を使うためのポイント)などの組み合わせは非常に多く、すべてに対応する分岐を手作業で書き、保守し続けることは現実的ではありません。

さらに、敵を強くすれば単純に難しくなるわけではありません。弱点を突きすぎる敵は理不尽に感じられます。難易度の調整は、バトル設計の担当者にとって、敵の行動を作る作業と同じくらい大きな負担になっています。

決まった手順で攻める敵と、パーティの弱点を見て戦術を変える敵を左右に並べた比較図
図1:敵の動きが、決まった手順の再生から、戦況を見て選ぶ戦術に変わります。

Enemy Battle AIが判断すること

AIが判断するのは「敵キャラクターの戦術」です。判断のパターンでいえば「次の一手」、つまり「次に何をするか」を選ぶ判断にあたります。

AIは、パーティの編成、各キャラクターの体力や状態、敵の使える技の一覧、これまでの戦闘の流れなどを手がかりに判断します。Decision AI は文章を生成するのではなく、決めた型どおりの答えを確率と確信度つきで返します。この業務では、次の3つの型で答えを返します。

答えの型この業務での問い
はい/いいえこの場面で、強力な技を今使うべきか。回復を優先すべきか
どれを選ぶか使える技や標的のうち、次にどれを選ぶか
どの程度か各戦術の有効度や、プレイヤーに与える負担の大きさ

答えが型で返ってくるため、そのままゲームの行動選択の処理につなげられます。バトル設計の担当者は、すべての分岐を書くのではなく、AIが選んだ戦術を確認し、ゲームの狙いに合うように範囲を定める役割に変わります。

導入後の開発チームの1日

たとえば、ターン制のRPGで、中盤のボス戦から使い始めた場合を考えてみます。

朝、バトル設計の担当者は、前日に行った社内プレイの戦闘ログを確認します。ログには、パーティの編成ごとに、敵がどの戦術を選び、その結果どうなったかが並んでいます。担当者は、特定の戦術に偏っていないかを確認し、狙いと外れている場面に印を付けます。

日中、プランナーは印を付けた場面について、AIが選んだ戦術を一つずつ見直します。「弱点を突く」「味方を回復する」「あえて見逃す」など、戦術の候補には確信度が付いています。プランナーは、ゲームの世界観に合わない動きを候補から外し、残した候補の範囲でAIに選ばせます。

夕方、テスターは更新した敵と実際に戦います。QA(品質確認)の担当者は、難しすぎる、または簡単すぎると感じた場面を記録します。その記録は翌日の見直しに生かされ、敵の動きを少しずつ整えていきます。敵の行動の見直しが、発売前の大きな調整作業から、日々の小さな改善に変わります。

朝、日中、夕方の3つの時間帯で、開発チームの仕事の流れを順に示した図
図2:朝から夕方までの流れ。AIが戦術を選び、人が狙いに合うかを確認します。

AIに任せる範囲をどう決めるか

AIの答えには確信度が付きます。この確信度で、どこまでをAIに任せ、どこからを人が判断するかを決めます。

  • 確信度95%以上:通常の雑魚敵の行動など、失敗しても影響が小さい場面です。AIが自動で戦術を選びます。
  • 確信度70〜95%:中ボスなど、戦闘の印象を左右する場面です。バトル設計の担当者が確認してから採用します。
  • 確信度70%未満:物語の山場となるボスや、学習に使える戦闘データが少ない新しい職業との組み合わせです。プランナーやディレクターが判断します。

この閾(しきい)値は最初から決め打ちにせず、PoC(本格導入の前に効果を確認する試行)で確認して定めます。はじめはすべての戦術を人が確認し、AIの選択と人の判断がどれくらい一致するかを見てから、任せる範囲を広げていくのが安全です。

確信度の0%から100%の目盛りを、70%未満、70から95%、95%以上の3段階に分け、それぞれの任せ方を示した図
図3:閾値はPoCで確認して定めます。物語上の重要な場面は、人が判断します。

小さく始める手順

既存のゲームエンジンや、いま使っている敵の行動設計は入れ替えません。AIは敵の行動の上にのる「判断レイヤー」として入り、まずは手元の戦闘ログのCSVから始められます。

  1. 戦闘ログを、パーティ編成・敵の行動・結果の列を持つCSVとして書き出します。対象は1つのダンジョンや1体のボスなどに絞ります。
  2. AIが選ぶ戦術と、バトル設計の担当者の判断を机上で比べます。この段階では、ゲームの中の敵はまだ変えません。
  3. 合意できた範囲から、実際の敵に反映してテストプレイを行い、指標の変化を確認します。

PoCの期間は3〜8週が目安です。期間中は、次の5つの指標を測ります。

  • 敵が選ぶ戦術の種類の多さ
  • パーティの勝率のばらつき
  • 戦闘にかかるターン数
  • プレイヤーの離脱の位置
  • テスターが感じる理不尽さの評価

目標とする値は、PoCの前に現状を測ってから一緒に定めます。効果が確認できた範囲を広げ、ほかのボスやダンジョンへ育てていく進め方です。業務の判断を一つずつAIに任せていくことが、AX(AIトランスフォーメーション)の現実的な一歩になります。クラスフォックスの Vertical AI SaaS は、初期費用0円・月額10万円(税別)から、1業務単位で始められます。

測る指標として、戦術の種類の多さ、勝率のばらつき、ターン数、離脱の位置、理不尽さの評価を並べた一覧図
図4:数値の目標は定めず、PoCで測る指標の名前から確認します。

ゲーム開発の判断を支えるほかのAI

ゲームの開発には、敵の戦術のほかにも、毎日くり返される判断があります。たとえば、同じRPGの中で味方キャラクターの動きを決める「Party Member AI」があります。敵と味方の両方で、状況に応じた行動を選べるようにすると、戦闘全体の手応えを整えやすくなります。

よくある質問

いま使っているゲームエンジンや敵の行動設計は入れ替える必要がありますか

入れ替える必要はありません。AIは判断レイヤーとして既存の仕組みの上にのり、まずは戦闘ログのCSVで始められます。

どのようなデータが必要ですか

パーティの編成、敵の行動、戦闘の結果を記録した戦闘ログが基本です。まずは手元にある範囲で始め、PoCの中で足りないデータを確認します。

どのくらいの期間で試せますか

PoCは3〜8週が目安です。週ごとに結果を見ながら、進め方と任せる範囲を一緒に判断します。

トップ画像の写真:Photo by Aksel Fristrup on Unsplash

本記事で紹介する活用シーンは、クラスフォックスが設計した活用構想です。効果は、貴社のデータを使ったPoCで確かめます。

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