概要
業種を問わず業務の効率化とビジネスモデルの変革が急速に求められています。
ここでは建設業界がDX推進により解決すべき課題とDX推進のメリット、そして現在進行中の建設業界におけるDX推進事例について見ていきましょう。
建設業界における現状の課題
建設業界のDX推進を紹介する前に、現状の課題を整理しておく必要があります。
人材不足と技術継承の問題
建設業における就業者数は1997年に685万人を記録して以降、減少が続いており2021年6月29日に総務省統計局が発表した「労働力調査(2021年5月分)」によると、就業者数全体は6,667万人と前年同月比11万人の増加であるのに対し、建設業従事者は484万人で前年同月比2万人の減少となっています(※1)。
また高齢化の進行による後継者不足に加え、新たな人材の確保が進んでいないことからこれまでに積み上げてきたノウハウの断絶も人材不足に伴う深刻な問題です。多様なアナログ業務からの脱却も課題と言えます。
建設業界では発注書や工程表、入力票など手入力が必要な書類が多く、図面なども紙に頼った業務体系が維持されており、依然としてアナログ業務からの脱却が十分とは言えない状態が続いています。
資材調達のサプライチェーン問題
これは建設業界が受注産業であることも影響していますが、受注に応じた資材発注・生産と業務発生が常態化しているため、原材料相場や輸送費の上下の影響を受けやすく、サプライチェーンの効率化を妨げているからです。
建設業界におけるDX推進のメリット
DXの推進によって建設業界の各課題はどのように変革していくことが可能なのでしょうか。
BIM/CIMの導入
業務効率化と技術継承の対策として、BIM/CIMの導入が注目されています。
BIMは「Building Information Modeling」の略でこれまで2次元の図面を用いていた建設生産プロセスを3次元化することで図面の視覚的な理解を促進し情報共有の容易化と作業効率の向上を期待するものです。
CIMは「Construction Information Modeling(Management)」の略で、BIMが各種建築物を対象にしているのに対しダムなどの土木建造物・土木工事を対象にしており、安全性や品質、環境性能の向上まで含んでいます。
BIM/CIMは熟練の技術者による判断を記録するため、これらを学習することで若手のスキル醸成を促すことが出来ますが、AI技術の利用でさらに技術継承問題の解決を加速させることが可能となります。
現場で蓄積したデータをAIで解析し、作業と技術の標準化を図り、熟練者が蓄積してきた高度な技術と同程度の水準を若手に伝えていくことが出来るようになります。
遠隔操作ロボット
さらに建設業界では5Gなどの高速回線を利用した通信環境の高度化と遠隔操作可能なロボットの活用による省力化が進みつつあり、現場の安全性確保と人手不足解消への期待につながっています。
建設業界のDX事例1.戸田建設:企業・業界の広域連携とエコシステム形成による新サービス創出へ
戸田建設ではDX実現をロードマップ化し、4つのActionに分けて推進しています。現在はAction1「ものづくりのデジタル化推進」のフェーズに有り、BIM/CIMを中核にリアルタイムで施設運用データを収集。
Action2では「施設運用サイクルの形成」、Action3で「企画コンサルへのフィードバック」、そしてAction4で「エコシステムの形成」へと発展させていく予定です。
戸田建設が持つ建造物の構築データや施設運用データによって将来予測や変更シミュレーションを企画コンサルタントへとフィードバックしていくことで、同社は「顧客から発注を請けゼネコンとして(設計)施工を手掛ける」領域から「ビジネスパートナーとして企画を評価、運用を含めたプロジェクト管理を行う」形態へと発展させていく計画。
デジタル技術が企業や業界の広域連携とエコシステムの形成を可能にするとして、1社では実現困難な新たなサービス創出に取り組んでいます。
体制は専門組織としてICT統括部の中に「DX推進室」を設け、建築・土木・設計・価値創造との連携を図るため「情報連携推進委員会」と共にDXを推進しており、社員に大学の受講をさせることでビジネスプロセスやビジネスモデルを変革するための人材として育成する施策も実行しています(※2)。
建設業界のDX事例2.大成建設:社内横断組織とDX標準環境「T-BasisX」の構築によるDX推進
大成建設は2019年7月に「AI・IoTビジネス推進部」を立ち上げ、同年10月にはマイクロソフト株式会社とAI・IoTを活用した施設運用・保守事業の変革に向けた協業を開始するなどDX推進に積極的な動きを見せてきました(※3)
企画、プラットフォームデザイン、デジタルビジネス展開を担当する推進部門を組織化し、社内横断的にプロジェクトチームを編成してワーキンググループを通じ事業化を進めています。
大成建設が目指しているのはAIやIoTそれにBIMの活用により建造物の竣工直後からビルマネジメントを効率的・効果的に行い、顧客の維持管理負担軽減を図ることです。
一方で建造物の設計・施工・改修を一貫して提供可能である強みを活かしたスマートファクトリーの実現も、IoTやAIによる情報分析や自動制御などを活用して推進中です(※4)。
2021年4月には協力企業と共に現場内でインターネット環境を網羅的にカバーするメッシュWi-Fiと、従業員の作業状況を把握する「IoT活用見える化システム」を一体化した建築現場におけるDX標準基盤「T-BasisX」を構築。
着工から竣工までの現場内における各種データの収集・分析が可能となり、建築現場におけるDX推進加速と生産性向上に成功しています。
「T-BasisX」は地下階や高層階などこれまでの建築現場で携帯電波の届かない場所におけるインターネット利用の困難さを解消し、多くの手間・コストが必要にされていた現場内における無線環境の整備の省力化とコスト削減を実現します。
また「IoT見える化システム」との連携で様々な現場内データの収集・分析及び一元化利用を可能としたことで現場の安全・品質管理や生産性向上に繋げ、顧客への報告や本支店の遠隔支援に寄与しています。
今後は「T-BasisX」を基盤としたロボット・AI・IoT活用による建設生産プロセスのDX化推進を通じ更なる生産性向上に取り組んでいく他、竣工後の維持管理フェーズにおいても「T-BasisX」のシステムと開発済みの建物運用統合管理システム「LifeCycleOS」と連携させることで顧客ニーズに応じた新たなソリューションを提供していく予定です(※5)
建設業界のDX事例3.鹿島建設:「鹿島スマート生産ビジョン」の策定と「DX銘柄2020」
鹿島建設は2018年11月に建設就業者不足への対応や働き方改革の実現に向け、建築工事のあらゆる生産プロセスを変革し生産性向上を目指す「鹿島スマート生産ビジョン」を策定しています(※6)。
「鹿島スマート生産ビジョン」のコアコンセプトは「作業の半分はロボットと」「管理の半分は遠隔で」「全てのプロセスをデジタルに」の3点で、人と機械の協同による生産性向上や遠隔管理の強化による現場管理者の働き方改革、そしてBIMを基軸としたプロセスのデジタル化を通じてDXを推進します。
同社では国内の常時300件を超える稼働建築現場において、各現場の進捗状況や技術課題などを常に現場と支店・本社が共有出来る情報共有システム「PitPat」や、協力会社の労務繁忙状況を全国規模でリアルタイムに共有、労務逼迫への組織的対応を実現する作業間連絡調整システム「Buildee」を構築。
またパートナー企業と共に現場入退場管理システム「EasyPass」の開発などが反響を呼んでいます(※7)。
こうした取り組みにより鹿島建設は2020年に「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」に選定されました。
「DX銘柄2020」はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革を積極的に推進し、新たな成長や競争力強化につなげている企業として経済産業省と東京証券取引所が協同で選定している銘柄です。
鹿島建設では「DX銘柄2020」への選定を「先端デジタル技術を活用した建設生産プロセスの変革が高評価を得た」と分析しています(※8)。
まとめ
建設業界におけるDX推進はその重要性への認知・理解が進み、DX化による効果・メリットが明確になり、DX化の手法が確立しつつある段階に入ったことから、各社が急速に取り組みを強めています。
建設業界のDX推進が加速した背景には、従来より人手不足や技術継承の問題が顕在化していた業界であることや、高齢化の進行、いわゆる3Kとして若者に敬遠されがちな業種であるとの認識を変えたいという思いがあったのではないでしょうか。
また図面を多用するアナログ業務が多いことから建設業界はDX推進の効果を生み出しやすい環境にあるため、取り組みの積極性が今後他社との業績差別化に寄与していくことでしょう。
BIM/CIMやAI、ロボットそれに高速通信回線の活用により、建設業界のDX化は今後数年で飛躍的に進展していくものと考えられます。
参考URL
※1:【総務省統計局】労働力調査(2021年5月分)
※2:【戸田建設】戸田建設が考えるデジタルトランスフォーメーション(DX)
※3:【大成建設】AI・IoTを活用した施設運用・保守事業の変革に向け協業を開始
※4:【FUJITSU JOURNAL】AIを活用し現場課題を解決、大成建設が挑む建設事業でのDX展開とは
※5:【大成建設】Wi-Fi環境とAI・IoTを一体化したDX標準基盤「T-BasisX」を構築
※6:【鹿島建設】建築の生産プロセスを変革する 「鹿島スマート生産ビジョン」 を策定
※7:【鹿島建設】鹿島スマート生産が担う建設現場の未来
※8:【鹿島建設】「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」に選定