村人が状況を見て動き出す「NPC行動AI」の活用シーン

この記事の要点

  • AIが、プレイヤーの行動やワールドの状況を踏まえ、NPCが次にとる行動を確率と確信度つきで判断します。
  • 決められたセリフを繰り返す村人から、状況に応じて行動を選ぶ村人へ、ゲームの世界が変わります。
  • ゲームの既存の行動データをCSVで用意すれば始められ、3〜8週のPoCで体験への影響を測ります。

NPC行動AIは、プレイヤーの行動やワールドの状況を見て、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)が次に何をするかをAIが判断し、行動の候補と確信度を返すしくみです。クラスフォックスが設計した Vertical Decision AI SaaS の一つで、ゲームのプランナーやAIプログラマー、ディレクターの判断を支えます。本記事では、NPCの行動づくりで起きていること、AIが判断すること、導入後の開発現場の1日、AIに任せる範囲の定め方、小さく始める手順を順に紹介します。

NPCの行動づくりで起きていること

RPGやタクティカルゲームの村人は、多くの場合、決められたセリフを同じ順番で繰り返します。プレイヤーが事件を解決しても、村が危機に陥っても、村人は昨日と同じ場所で同じ言葉を話します。

石造りの建物が並ぶ、村の細い通り
村人が行き交う通りの雰囲気を伝える挿絵です。NPCの行動づくりの現場は、この世界の中にあります。 Photo by Christian Harb on Unsplash

これはプランナーが手を抜いているからではありません。NPCの行動は、条件分岐やステートマシン(状態と遷移の表)で一つずつ設計するため、増やすほど組み合わせが膨らみます。確認すべきテストの数も、同じように増えます。

結果として、開発チームは重要なNPCにだけ手厚い行動を与え、その他の村人は定型の行動に任せることになります。プレイヤーの側では、世界の中に生きている人がいるのではなく、配置された人形がいるように感じられます。

決められた行動を繰り返すNPCと、状況を見て行動を選ぶNPCの比較図
図1:決められた行動の繰り返しから、状況を見て選ぶ行動へ

行動の幅を広げるには、条件分岐を書き足す方法があります。しかし、書き足すほど、担当者以外には全体が見えなくなります。仕様変更のたびに別のNPCの動きが変わる、という悩みも生まれます。

NPC行動AIが判断すること

NPC行動AIが判断するのは「NPCの次の行動」です。判断のパターンは「次の一手(次に何をするか)」にあたります。プレイヤーの位置や直前の行動、時間帯、NPC自身の状態を入力として受け取り、行動の候補ごとに確率と確信度を返します。

Decision AI は、台詞や文章を生成するAIではありません。業務の「判断」だけを返すAIです。NPCの場合も、セリフの文面をAIが書くのではなく、「どの行動をとらせるか」を選びます。セリフや演出は、これまでどおりシナリオライターやアーティストが作ります。

答えの型は、次の3つです。この業務では、たとえば次のような問いに置き換えられます。

答えの型この業務での問い
はい/いいえこの村人は、いまプレイヤーに話しかけるべきか
どれを選ぶか畑仕事・見回り・休憩・避難のうち、次にとる行動はどれか
どの程度かこの村人は、いまどの程度、警戒しているか

NPCが動き出す開発現場の1日

たとえば、RPGを開発するスタジオを考えてみます。この例は仮定の場面です。村の人々は、昼は畑や市場で過ごし、夜は家に戻る設計です。

朝、プランナーは、前日までのプレイログから作ったCSVをAIに渡します。AIは、村人ごとの行動候補と確信度を返します。プランナーは、確信度の高い判断が多いNPCから順に、挙動を画面で確認します。

開発現場の朝から夕方までの流れを示すタイムラインの図
図2:NPC行動AIを使う開発現場の1日

日中は、AIプログラマーが、ゲームの実行環境から判断を呼び出す部分を整えます。ゲームのシステムは入れ替えません。行動を選ぶ部分にだけ、判断レイヤーが加わります。

午後には、QAの担当者が、プレイヤーが村を訪れたときの村人の動きを確認します。確信度の低い判断が出た場面は、記録に残ります。ここで見つかった不自然な動きが、次の調整の材料になります。

夕方には、ディレクターが、プランナーのまとめた結果を見ます。ディレクターは、世界観に合わない行動を除外する条件を決定します。AIが提案し、人が世界観を守る役割分担です。

NPCの行動をAIに任せる範囲の定め方

Decision AI は、確信度によって任せる範囲を定めます。95%以上は自動で処理し、70〜95%は担当者が確認し、70%未満は上長や専門家に回します。この閾値は、PoCで確認してから定めます。

NPCの行動に当てはめると、たとえば次のようになります。確信度が高い場面では、村人が自動で行動を選びます。中程度の場面では、プランナーが録画した挙動を確認し、問題がなければ採用します。低い場面では、ディレクターが方針を決定します。

確信度の3段階とNPCの行動を任せる範囲を示す図
図3:確信度に応じてNPCの行動を任せる範囲を分ける

物語の山場に登場する重要なNPCは、最初から人の承認を前提に設計します。村人のような多数のNPCから自動化を始め、重要なNPCは段階的に広げていくのが現実的です。

小さく始める手順:手元のCSVとPoC

NPC行動AIは、ゲームのエンジンを入れ替えずに始められます。手元にあるプレイログや、NPCの行動の設定表をCSVにして渡すことから始めます。特定のAIモデルには固定せず、判断特化モデル「Jev」(TypeSafe AI)などを活用します。

PoC(小規模な検証)の期間は、3〜8週が目安です。まず1つの村、1種類のNPCに絞ります。そのうえで、AIの判断と、プランナーが期待する行動を比べます。

CSVの準備からPoCでの検証までの小さく始める手順の図
図4:1種類のNPCから小さく始める手順

PoCでは、次の指標を測ります。数値の目標は、貴社のデータを使って定めます。

  • AIの判断と、プランナーが期待する行動との一致の度合い
  • 確信度ごとの、人が確認した件数
  • プレイヤーが感じるNPCの自然さ(テストプレイの評価)
  • NPCの行動を調整するのに要する作業時間
  • 調整のたびに生じる、他のNPCへの影響の件数

業務の判断を一つずつAIに任せていくことが、AX(AIトランスフォーメーション)の現実的な一歩です。村人ひとりから始めても、行動づくりの進め方は変わり始めます。

似た判断を担うAI

同じゲーム分野には、敵キャラクターの戦術を判断する Enemy Battle AI や、仲間キャラクターの行動を判断する Party Member AI があります。NPC行動AIで村人の行動を整えたあと、敵や仲間へ広げる進め方もあります。

よくある質問

既存のゲームエンジンやツールはそのまま使えますか

そのまま使えます。Decision AI は既存のシステムを入れ替えず、その上にのる判断レイヤーとして入れます。

NPCのセリフもAIが作るのですか

いいえ。Decision AI は文章を生成せず、行動の判断だけを返します。セリフや演出は、これまでどおり人が作ります。

どのくらいの期間で試せますか

PoCの期間は3〜8週が目安です。まず1つの村や1種類のNPCで、AIの判断と期待する行動を比べます。

トップ画像の写真:Photo by Christian Harb on Unsplash

本記事で紹介する活用シーンは、クラスフォックスが設計した活用構想です。効果は、貴社のデータを使ったPoCで確かめます。

この記事を読んだ方へ

DX推進、IT人材教育、システム開発・導入のご相談

システム導入、ペーパーレス化、業務効率化、省力・省人化、組織改革、人材育成など、
DX推進といっても多くの課題があります。

DX推進でお困りの方はお気軽にお問い合わせよりご相談ください。

 
お問い合わせはこちら