【DXレポート】日本のDX推進の現状

ビジネス領域においてここ数年、DXは非常に重要なテーマとなり、この言葉を耳にしない日はほとんどないほど積極的な推進が呼びかけられています。

民間での活用だけに留まらず、自治体や政府、政府の管轄機関である経済産業省が積極的に呼びかけ推進策を進めているからです。

しかしながらDX推進は現状でほとんどの企業でうまくいっているとは言えません。本記事から3回にわたって、DXレポートから見えた日本でのDX推進の現状や、対策を見ていきます。

(DXレポートに関する記事は以下もご参考ください)

DX推進、それは決してIT導入だけで解決する問題とは限らない。

DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略語で、デジタル技術によるビジネスモデルの変革を表します。

最先端のIT技術の活用やツールの導入までが目的ではなく、デジタル技術を採用して根本的にビジネスモデルを変革するまでを指します。

ビジネスモデルの変革は、組織やそこで働く人たちがより幸せとなることを目指し、高利益を維持し続けられる仕事の方法に変えていくことです。

  • 少ない労力で大きな利益を生む
  • 効率化により余裕が生まれた時間や金銭を組織や社会に還元
  • さらに成長できるよう投資

以上のサイクルが生まれるようにデジタル技術を活用し変革モデルを作っていくのです。

日本企業の現状

DXを進めていこうとデジタル部門を設置するといった取り組みは現状進められています。PoC(概念実証、戦略仮説・コンセプトの検証工程)を繰り返すなどある程度の投資は行っているものの、実際にビジネス変革にまでつながっていないことが多くの企業での現状の課題です。

近年はビジネス環境、人材マーケット、テクノロジー、法制度、自然環境が著しく変化しているために、自社の状況がどんなに現在は盤石であったとしても、いつまでもうまくいくとは限りません。

日本に限らず世界的な動きではありますが、企業を取り巻く情勢は不安定不確実性を急速に増しています。そのような状況にも対応できるようにDXが求められています。

経産省が公開している「DXレポート」とは?

経済産業省では2018年9月「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」を発表しました。

それに伴い、DX推進ガイドライン、DX推進指標も公開し、企業のDX推進の施策を展開してきました。

2020年12月には「DXレポート2(中間とりまとめ)」を公表し、2021年にはDXレポート2の追補版として「DXレポート2.1」を公表しました。

バージョン発表年月概略
12018年9月2025年の崖DX推進されなければ年間12兆円の経済損失の可能性
22020年12月ユーザー企業、ベンダー企業の共創の推進ラン・ザ・ビジネスからバリューアップ、アジャイル開発への対応の重要性
2.12021年8月デジタル変革後の産業と企業の姿デジタル産業への変革の加速のための政策の方向性
表:DXレポートのバージョンごとの発表年月と概略

それぞれのレポートの内容を詳しく解説します。

DXレポート

DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~というタイトルで2018年9月7日に発表されました。経済産業省主催で非公開に行われた「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の議論の成果をまとめたものです。

2018年〜2022年の日本のIT産業成長率はわずか1.1%の見込みであり、2025年までにDX推進がされなかった場合には、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると述べられています。

さらに「2025年の崖」と表現する問題にも言及しています。「2025年の崖」とは、日本企業の基幹系システムが部分最適を繰り返してきたために、全体での最適化にはほど遠く、2025年に老朽化を迎えます。多くの大企業が採用しているERP(基幹業務パッケージ)「SAP」のサポートが2027年に切れるなども重なり、多くの基幹系システムが危機的な状況に陥ってしまう問題です。

「攻めのIT投資の足かせとなっているレガシーシステム(時代遅れになってしまったコンピュータシステム)を刷新し、DXを進めることによって日本企業の競争力を高めていこう」というメッセージが込められています。

重要なことは、デジタルを前提として企業文化や仕事のやり方を変えて、新たなビジネスモデルを創出し、競争優位性を高めることであるとしています。

DXレポート2

DXレポート2(中間とりまとめ)は、2020年12月に経済産業省より発表された日本におけるDXについて言及した第2弾のレポートです。

2018年発表の第1弾DXレポートから2年が経過し、新型コロナウイルス感染症の流行などによって国内の企業を取り巻く環境は以前より不安定となっているため、国内のDXを加速度的に推進していくことが求められるようになり、経済産業省が課題や対策についての中間報告をまとめたものです。

企業向けに、競争優位性の確保のために、変化に迅速に適応し続ける必要があり、システムのみならず、企業文化(固定観念)を変革することの重要性を強調しています。そのためにはレガシー企業文化からの脱却の必要性があります。

望ましい姿として、これまでは受託開発型のビジネスモデルを展開してきた日本のITベンダーが、自らサービス提供する海外の巨大プラットフォーマーと互角に渡り合うことが必要であるとしています。海外は内製化が主であるので、日本では現行のビジネスモデルから脱却する覚悟で価値創造型のビジネスにしていくべきであると強調しています。。

解決のためにはシステム刷新だけに留まらず、レガシーシステムはその組織で培われてきたビジネスプロセスと密接につながっているケースが多イノで、ビジネスプロセスそのものにメスを入れる必要があります。

これを断行すると、これまでのやり方に慣れていた現場サイドからの抵抗にもあう場合が多いですが、これらの問題を解決しない限りは、新規ビジネスの創出やビジネスモデルの変革は限定的なものとなってしまいます。

日本のITベンダーの目指すべき方向性は以下の3点が必要であるとしています。

  1. 現行ビジネスの維持、運営(ラン・ザ・ビジネス)からの脱却をする覚悟を持って、価値創造型のビジネスを行う方向性に舵を切るべき

企業がラン・ザ・ビジネス(現在のシステムを維持していくこと)からバリューアップへ軸足を移し、アジャイル型の開発などによって事業環境の変化へすぐに対応できることを追求すべきで、結果として、ユーザー企業とベンダー企業との垣根がなくなることが究極的な産業の姿が実現されることが望ましいという方向性にするべきとしています。

  1. ユーザー企業とDXを一体的に推進していく共創的パートナーになっていくことが求められる

「ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進」の必要性を示しています。共創とは、ITベンダーの役割が、言われたものだけを作るのではなく、ユーザー企業と一丸となって協力して内製開発を実践することです。

  1. ITに関する強みを基礎に、デジタル技術を活用し、社会における新たな価値を提案する新ビジネスやサービスの提供主体となっていくことも期待される

DX推進に向けた中長期的対応として、個々の企業を超えたつながりによって、社会課題の迅速な解決と新たな価値提供を可能とするための、デジタル社会基盤(デジタルプラットフォーム)の必要性があるとしています。

DXレポート2.1

DXレポート2.1は、2021年8月31日にDXレポート2の補足として公表されました。

DXレポート2では明らかにできなかった、デジタル変革後の産業や企業の姿を示しています。既存産業の企業がデジタル産業の企業へと変革を加速させるための政策の方向性を取りまとめています。

「ユーザー企業とベンダー企業の現状、変革に向けてのジレンマ」

既存企業の業界構造は、ユーザー企業は委託による「コスト削減」、ベンダー企業は受託による「低リスク、長期安定ビジネスの享受」のWin-Winの関係にも見えるが、両者ともデジタル時代において必要な能力を獲得できず、デジタル競争を勝ち抜いていくことが困難な低位安定の関係に固定されてしまっています。

デジタル産業を目指す企業の3つのジレンマとして、

  • 企業共通・・・危機感のジレンマ、人材育成のジレンマ
  • ベンダー企業・・・ビジネスのジレンマ

があり、変革を阻むジレンマの打破のためには、企業経営者のビジョンとコミットメントが不可欠であるとしています。

「デジタル産業の姿と企業変革への方向性」

社会全体でのデジタル化が進む中で、この不可逆的な変化に企業は適応しデータとデジタル技術を駆使した新たな価値創出が求められています。

デジタル社会の実現に必要な機能を社会にもたらすのがデジタル産業で、それを構成する企業は、価値創出にデジタルケイパビリティを活用してそれらを介し、他社や顧客とつながりエコシステムを形成しています。

「変革に向けた施策の方向性」

  • デジタル産業指標(仮)の策定
  • DX成功パターンの策定

を今後策定していくとしています。

DXは企業で実際に進んでいる?

2020年12月に公表された「DXレポート2」で示された結果の中の2020年10月に独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がまとめた調査結果によると、2020年時点でDXに「まったく取り組んでいない」「取り組み始めた段階」と回答した企業約500社の内、約95%にのぼっています。

また導入して推進した企業がすべて成功するわけではありません。DXの意味を誤解している、企業のメンバーたちの理解が得られないなど推進を阻む理由がいくつかあります。

それらについては次の記事で詳しく説明します。

まとめ:DXレポートから見えた日本の姿

本記事では、経産省から発表された3種類のDXレポートの概略を説明し、その内容から見えてきた日本の企業を取り巻く環境やDXの現状を見ていきました。現状のままでは悲観的な未来が待っているとして強い警鐘を鳴らしています。

次回からDXを阻む壁とそれを乗り越えるための対策について見ていきます。

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