前記事まで2回に渡り、経産省が発表したDXレポートの概要説明と日本におけるDX推進の現状、そして実際DX推進がうまくいかない原因はどこにあるかを解説してきました。
本記事では、DX推進のために企業が目指す姿や解決策を示しながら、実際の現場での導入事例を紹介し、DX推進の進む方向性を見ていきましょう。
(DXレポートに関する記事は以下もご参考ください)
DX推進のために企業が目指す方向性
DX推進のために企業は何をすべきなのでしょうか。まずは企業が目指すべき方向性から考えてみましょう。
DXレポート2.1の中で示されていたのは、
- デジタル産業の姿と企業変革の方向性
- 変革に向けた施策の方向性
です。
DX推進の壁を打破するために以下の点を重視すると良いと考えます。
- 経営者による社内全体を巻き込んだ改革
- 一貫性を持ったシステム構築
- DX推進できるIT人材の確保や育成
次の項で、これらの方向性をもとに具体的アクションや解決策を見ていきましょう。
具体的アクション、解決策・対策案は?
DX推進での企業の目指すべき方向性を説明しました。では具体的に、どのような行動につなげればよいのでしょう?解決策や対策案も合わせて考えていきましょう。
アジャイル開発
DX推進を進めていくうえで一つの有効な方策として「アジャイル型」の開発や組織が挙げられます。従来の「ウォーターフォール型」は、初期段階に要件や機能の定義を十分に行ってから開発へと進んでいく手法ですが、アジャイル型は実装単位ごとに機能を分割して個別開発します。
DXレポート2の中では、変化への対応力の高いITシステムの構築のためには、仮説や検証を俊敏に実施することが必要で、ユーザー企業は、アジャイルな開発体制を社内に構築し、市場の変化を捉えながら小規模な開発を繰り返し、ベンダー企業の変革が必要であると述べられています。
ユーザー企業とベンダー企業が対等なパートナーシップを組み、アジャイルな考え方を共有しながらチームの能力を育て、内製開発を協力して実践すべき(共育と共創)であるとしています。
DX推進のプロジェクトマネジメントに対応できる人材の育成
人材面はDX推進において非常に重要な要素です。技術やツールにどうしても目が行きがちですが、最も重要視するべきであると言って良いほど、人材の確保や育成は欠かせません。
経営者
経営者のコミットメントが必要で、さらに経営者による社内全体を巻き込んだ改革を行い、必要なIT人材を適切に配置することが求められます。果たすべき役割や権限を明確にした上で、適切な人材が配置されるべきです。
また共通理解を全社で共有することも必要でしょう。DXがどのようなものか?自社のビジネスにとってどのように役立つのか?どのような進め方ができるか?などを検討します。
IT人材、プロジェクトメンバー
IT人材のリソースが社内にないことが多いために、DX推進が行えない企業が多くあります。
DXレポート2では、
人材面において
- ジョブ型人事制度の拡大
- DX人材の確保
- 社会全体としての学び直し(リカレント教育)
- 優れた専門性が市場で評価される環境づくり
- 能力開発が推進される環境づくり
などの具体的手法が述べられています。
老朽化した既存システムの「技術的負債」の見直し
日本企業のITシステムは「老朽化」「複雑化」「ブラックボックス化」しています。これではシステム連携がうまくできずにデータ活用を妨げてしまいます。全体を俯瞰しての一貫性を持つシステム構築にすることで、全社を通してシームレスにデータ活用でき、企業の競争力向上が見込めます。
DX推進を成功させた事例
DX推進はすでに日本でも多くの企業が実践しており、成功させたケースもたくさんあります。DXレポートでもDX成功パターンの策定を行っていると書かれていました。
これらの事例をいくつか見ていくことで自社におけるDX推進のヒントが得られるはずです。
経済産業省と東京証券取引所が毎年発表している「DX銘柄」があります。2021年は上場企業28社が選定され、大賞にあたる「DXグランプリ」には日立製作所とSREホールディングスが選ばれました。
DX銘柄は2015年から毎年発表しており、2019年までは「攻めのIT経営銘柄」の名称でしたが、2020年から今の名称になっています。
中長期的に企業価値の向上を重視する投資家向けに魅力ある企業を紹介して、企業のDX推進を後押ししたいという取り組みです。
そこでDX銘柄によく選ばれている企業や、DXグランプリを獲得した企業から4例を事例としてご紹介します。
事例1.トラスコ中山
機械工具卸のトラスコ中山は、「DX銘柄2020」グランプリに選ばれました。社長が強いリーダーシップを発揮してDXを推進し、AI(人工知能)やビッグデータの重要性を強く認識していました。顧客の利便性を高めるためにはどのようにすべきかを常に考え、実現のためにデジタルの力を借りる意識で進めています。
一つの取り組みとして「MROストッカー」があります。これは顧客が必要とするだろう工具を、顧客先の製造現場へ置き薬のように配備しておき、使った分だけ後から徴収するというものです。データ分析による需要予測で、在庫の増減を常に把握し先回りの配送を目指し、納期ゼロに挑んでいます。
必要になったものはスマートフォンアプリでバーコードを読み取ることで持ち出せます。減ってきたら自動発注により販売店が補充するため、一定量の在庫が常備されます。
このMROストッカーで得られた情報を次のビジネスにつなげる新たな事業を生み出す種としています。
事例2.アサヒグループホールディングス
アサヒグループホールディングスは前身の「攻めのIT経営銘柄」時代から全ての年においてDX銘柄として選定されています。
さまざまなDXの取り組みがありますが、データ分析活用によって情報基盤の連携と人材育成を進めており、飲食を核とした「フード・アズ・ア・サービス(FaaS)」を目指しています。
また人材育成にも積極的に取り組み、DX推進の人材であるビジネスアナリストの育成のため、研修の充実をはかり、学んだ後は現在の職場で顧客への新しい価値提供の取り組みに関わることが期待されています。
DX人材育成だけでなく、グループ全体でのITリテラシーの向上にも取り組んでいます。
事例3.小松製作所
小松製作所(コマツ)は競争が激化する環境に直面している中で、工事現場のビッグデータを活用した様々な取り組みを生み出し続けています。
「KOMTRAX」は建機にIoTセンサーやGPSを取り付け、位置情報や稼働状況などを遠隔地からリアルタイムで把握できるようになっています。これは2001年から提供されており、デジタル活用の先駆的事例です。IoT化した建機を使う「スマートコンストラクション」を2015年に開始するなど様々な取り組みを続けています。
新しい取り組みとして、本格化した施工管理サービスで全ての工程を3次元の仮想空間でつないで再現する事業を手がけています。コスト半減を目指して、無駄を一掃して価格競争と一線を画した新たな成長基盤を目指します。
工事現場の大量データを集めることができるようになり、PDCAが高速で回るために工事の進捗を状況に応じて計画を自動で修正し、人員や建機の配置などを最適化できます。
手戻りが少なくなり、計画の変更でもこれまでに比べて手間がかからず、工期の短縮や工事のコストも削減が可能ということです。
事例4.SREホールディングス
不動産事業や人工知能(AI)を手掛けるSREホールディングスは、「DX銘柄2021」でグランプリを受賞しました。ソニーグループが立ち上げた新規事業として、2014年に設立された「ソニー不動産」がもとになっています。
AIを生かした業務効率化に力を入れていて、査定業務ではこれまで人間が過去の類似物件と照らし合わせながら算出してきた価格を、AIによって自動化し、約3時間かかっていた作業時間を10分にまで短縮できました。また査定の誤差も低減できたということです。
この価格推定エンジンが金融機関でも活用したいとの声を受けて、ビル内での電力需要予測や工場内の在庫管理などの他業種へのシステム外販も進めています。
まとめ
DXレポートで見えた課題の解決のために、企業が目指すべき方向性や具体的なアクションや対応策を見ていきました。またDXに成功した事例を4例ご紹介しました。DXの進め方は企業それぞれで全く違いますが、成功事例や具体策を見ていくことで何かしらのヒントは得られるはずです。
自社の課題を整理し、取り組むべき方向を定めて変革していきましょう。