「IT企業が取り組むことのできるSDGs活動とDX推進」は、IT企業がデジタル技術を活用して、どのように社会課題解決に貢献できるのか?をSDGsと紐付けながら考えるシリーズです。
シリーズ第5弾となる本記事のテーマは”持続可能な生産と消費”。”持続可能な生産と消費”に関してどのような課題があるのか?IT企業はデジタル技術を活用してどのように解決に貢献できるか?について考えを深めていきたいと思います。
目標12「つくる責任 つかう責任」とはどんな目標?
SDGsの目標12は、「持続可能な消費生産形態を確保する」というテーマに基づいて、11個のターゲットで構成されています。ターゲットのポイントを簡単にまとめると以下の通りになります。
- 天然資源の持続的な管理・効率的な利用
- 化学物質の放出量削減
- 食品ロスの削減
- 廃棄物の発生防止・削減・再生利用・再利用
- 持続可能なライフスタイルへの移行
持続可能な方法で生産や消費を行うようになることで、地球の限られた資源を未来につなぎ、人間を始めとしてあらゆる生態系が平和に地球での活動を続けることができるようになります。
逆に言えば、持続可能な生産・消費に取り組まなければ、地球の資源は数十年後に枯渇してしまい、動植物の数は減り、飢餓に苦しむ人が増えることを示唆しています。今の私たちの生活では、水・エネルギー・食料などの資源を使いすぎているのです。
経済活動の担い手は企業だけでなくそれを利用する一人一人の消費者も含まれます。企業が、環境に配慮した方法で経済活動を行うこと、そして、消費者はそれを適切に評価して環境に配慮されたものを大切に利用することが重要なのです。
”持続的な消費と生産”に関する国内外の課題
持続的な消費と生産について、国内外にはどのような問題があるのでしょうか?改めて確認してみましょう。
世界的な課題
世界的に見ると、消費ニーズを満たすために使用する一人当たりの材料消費量は、2020年に比較して40%以上増加しており、これは、開発途上地域における工業化が主な要因と言われています。予測通り2050年までに97億人まで人口が増えた場合、このまま現在の経済活動、ライフスタイルを続けていては地球が3つ必要とまで言われています。
- 食料生産量の3分の1が廃棄されている
- 一人当たり材料消費量は2020年に比較して40%増加
- 自然が浄化できる以上の速さで水を汚染している
- 10億人以上の人々が淡水を利用できていない(淡水:塩分濃度が低い水)
- 電気・電子機器廃棄物は2014年からの5年間で20%増加、リサイクル率は20%未満
日本国内の課題
日本で最も問題となっているのが、電子廃棄物です。電子ごみやe-wasteとも言われますが、日本の排出量は世界4位(2019年)。リサイクルに関する法令も整備され前進はしているものの、法規制の緩い開発途上国にスクラップや中古品として輸出されているケースも少なくありません。受け入れた途上国では不適切な方法で処理が行われており、ダイオキシンの発生、有害物質の土壌流出、児童労働など深刻な問題に繋がっているのです。
- 電子廃棄物の排出量は世界4位
- 食品ロスの量は世界でも上位を占めており、年間612万トン
- 輸入品およびサービスにおけるSO2(二酸化硫黄)排出量が多い
IT企業は「つくる責任 つかう責任」の達成にどのように貢献できるのか?
では、IT企業はICTを活用して、どのように”持続可能な消費・生産”の課題に貢献できるのでしょうか?
必要に応じた調達や生産
需要予測システムや在庫管理システムなどを活用して”つくり過ぎない””買い過ぎない”を支援することができます。世界の食品の14%は、小売店で販売される前にサプライチェーン上で失われていることが分かっています。ソフトウェアを活用して、市場の需要量を予測し、必要な分のみを調達・製造することで、食品ロスを減らすことができるようになります。
需要に即した調達・製造を行うことは、企業にとっても単純に調達・製造・物流コストを削減し、競争力強化に注力できるようになるだけでなく、売り逃がしを避けることにもつながります。必要な分だけ調達・生産することは、地球資源を無駄にしないというSDGsの達成への貢献と、企業の競争力強化が実現できるのです。
消費者の協力を促すサービス
ECに消費者の意識改革を進める機能を提供することができます。現在、スマートフォンの普及や通信環境の整備、COVID-19による外出自粛の影響などが相まって、消費活動はリアルからオンラインへと急速に移行しています。
ECに、”環境負荷の低い商品を購入すればポイント付加”、”賞味期限に応じてディスカウント”などといった機能を備えることで、SDGsの取り組みに消費者を巻き込んでいくことができます。また、飲食店での食べ残しを消費者の責任のもと持ち帰ることができる記録アプリなども登場しています。それらに取り組んだ企業は、環境志向の高い消費者や投資家の指示を集めたり、ブランド価値を向上したりと多くのメリットが享受できます。
エネルギー効率の高い製品の利用推進
IT企業がソフトウェアだけでなくハードウェアも含めてソリューションを提供する場合、TCO Certifiedの認証を受けた製品を推奨することができます。TCO Certifiedとは、IT機器を対象とした持続可能性を評価する認証制度で、IT機器の生産から廃棄にわたるライフサイクル全体を通して、環境価値の高い製品を選定しています。
電子ごみの問題が深刻化する中で、”つかう責任”に貢献することができるのです。企業が、環境負荷の低い製品を利用することは、手軽にSDGsへの貢献ができ、ESG投資への注目が続く中、企業イメージの向上に繋げることができます。
再エネ利用データセンター
IT企業はSaaS型の商品導入をサポートしたり、PaaSやIaaSなどデータベースの設計をサポートする機会が多くあるでしょう。その時に、データセンターが利用しているエネルギーに注目して提案することも目標12に貢献するひとつの方法です。データセンターは日本の電力の4%を消費しているとも言われており、既に、日本でも大手IT企業を中心にデータセンターの再エネ利用が急速に進んでいます。
利用するデータセンターの評価軸のひとつに”利用エネルギー”を加え、責任のある選択をしていくことで、クライアント企業の”つかう責任”の達成に貢献することができます。クライアント企業としては、企業自体に変革を起こすものではありませんが、可能なところから地球資源の有効活用を行なっていくことで、企業イメージの向上、それに伴う投資家や消費者の評価向上が見込めるでしょう。
まとめ
この記事では、SDGs目標12の「つくる責任 つかう責任」についてIT企業が貢献できることについて紹介してきました。さまざまな企業とパートナーシップを結んでいくIT企業は、その特性を活かしてつくる責任・つかう責任の達成に貢献することができます。
(参考資料)
UN:SDGs Report 2021
UN:About the Sustainable Development Goals
UN:Sustainable Development Report
国民生活センター:増え続ける電子ごみ
経済産業省:電気・電子機器リサイクルWGの活動状況について
TCO Certified
日経XTECH:進むデータセンター電力の再生エネ転換、「温暖化ガス46%削減」に重い責任
(SDGs活動とDX推進シリーズ 記事一覧)