「IT企業が取り組むことのできるSDGs活動とDX推進」は、IT企業がデジタル技術を活用して、どのように社会課題解決に貢献できるのか?をSDGsと紐付けながら考えるシリーズです。
シリーズ第3弾となる本記事のテーマは”働きがい”と”経済成長”。”働きがい”や”経済成長”に関してどのような課題があるのか?デジタル技術を活用してどのように解決に貢献できるか?検討を深めていきたいと思います。
目標8「働きがいも経済成長も」とはどんな目標?

SDGsの目標8は、「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」ことをテーマにしています。
目標8は12個のターゲットで構成されており、ポイントを簡単にまとめると以下のようになります。
- 全ての大人が、働きがいと十分な収入・権利を得られる仕事に就くことができる
- 児童労働の撲滅
- 環境にやさしい方法で経済を成長させる
- 技術向上やイノベーションによって、高いレベルの経済生産性を達成する
- 中小・零細企業、すべての個人が金融サービスを利用できる
これらのターゲットを全て実現することで、以下のような社会を実現することができます。
- 雇用の増加・収入の向上による、貧困や飢餓人口の削減
- 働きがいのある仕事による、生産性向上、経済発展
- 各世帯の収入が向上することによる、教育レベルの向上
現在世界中には、公平でない賃金で働かされている人、危険な地域での労働を強いられている人、働きたくないのに無理やり働かされている人などが大勢存在しています。このように不当な条件下で働いている人々の犠牲の上に成り立つ経済発展は、持続性の高い方法とは言えません。
環境を損なわない方法かつ、全ての労働者が幸せに働ける方法で、経済発展を目指していくべきなのです。
”働きがい”と”経済成長”に関する国内外の課題
働きがいや経済成長について、国内外にはどのような問題があるのでしょうか?改めて確認してみましょう。
世界的な課題
世界的に見れば、世界経済は新型コロナウイルスの影響で大恐慌以来の最悪の景気後退に直面しています。ワーキングプアや児童労働は増加傾向にあり、減少傾向にあった失業率も一気に増加してしまいました。
- 就労人口の2割は1日あたりの収入3.2ドル以下で生活
- 約10%の子どもが労働を強いられている(5~17歳)
- 全世界の61%は非正規雇用
- 男性の賃金は女性を12.5%上回っている
- 男性の就労率94%、女性の就労率63%
日本の課題
日本においては、経済が停滞しているにも関わらず労働時間が長く生産性の低さが長年指摘されています。また、ワーキングプアの問題もあり新型コロナウイルスの影響で、収入格差は一層開いている状況です。
- 男性の労働時間は先進諸国と比較して長い
- GDP成長率の鈍化(経済停滞)
- 年収200万円以下ではたらく労働者は、約32%
- 非正規雇用者の平均収入は正規雇用者の35%程度
- 民間企業では半数以上が障がい者の法定雇用率を達成していない
「働きがいも経済成長も」の達成に向けてIT企業が取り組めることとは?
では、これらの課題にIT企業はどのように貢献できるのでしょうか?
フェアトレードの証明
テクノロジーを活用してフェアトレード取引の証明に貢献できるでしょう。フェアトレードとは、「途上国など経済的に弱い立場にある生産者と、先進国など経済的に強い立場にある消費者が対等な立場で行う貿易」です。
フェアトレードが行われると、生産者に適正な賃金が支払われ、労働環境が改善し、搾取の構図を解消することができるようになります。昨今、SDGsの設定によってフェアトレードがより注目を集め、クリーンな商取引を行っていることを証明するニーズが増加しています。IT系のリーディングカンパニーや業界団体がコンソーシアムを立ち上げ、ブロックチェーンに商取引の履歴を記録する取り組みも始まっています。フェアな取引を行っていることを証明することは一企業において、SDGsの達成に貢献するだけでなく、企業ブランドの向上にもつながります。
ICT活用による働き方改革
ICTを活用して労働生産性の向上をサポートすることが考えられます。RPAやAIなどのテクノロジーによって定型業務を自動化・効率化することで、長時間労働を改善し、メンタルヘルスの向上にも寄与します。長時間労働とメンタルヘルスの関連性は高く、一人一人が健康に働き続け、地域経済を発展させていくためには解決すべき課題です。
また、定型業務を減らし、高付加価値業務に集中して取り組めるようになることで、企業の競争力が増し、非正規雇用者も含めた賃金アップにもつながります。更には、介護や育児との両立など時間的制約のために正社員を諦めている人も、正社員のまま働き続けられる可能性が高まります。
このように労働生産性を高めることは、働きがいを高め、質の高い雇用を生み出し、経済発展につながるといったSDGsに向けた取り組みだけでなく、企業の競争力向上といったDXの取り組みでもあるのです。
遠隔での長時間労働管理
IT企業はリモートワーク環境下の勤務時間管理を容易にすることができます。パソコンの稼働ログをもとに、一定の利用時間を経過したら利用制限をかける、特定の時間以降に利用したらアラートで管理者に知らせる、などといった機能を実装することができます。
長時間労働は、社員の心身の健康を害するリスクが高く、SDGs目標8の”幸せな労働”とは遠く離れたものです。リモートワークで部下の様子が見えなくなった今こそ、注意深く対応していかなければなりません。また、会社としても長時間労働に起因する貴重な労働力損失や、法令違反によってステークホルダーの信頼を失うといったリスクも避けられます。労働時間を管理することは、SDGsにも対応しつつ、ガバナンスを高めることでもあるのです。
身体障がい者のサポート
身体的な障がいを持つ人は、いくら労働意欲があっても就労を諦める人は少なくありません。しかし、テクノロジーの発達によってその状況は変わりつつあります。テキストを音声に変換する、逆に音声情報をテキストで表示するといったことから、遠隔からロボットに指示を与えて動かしたり、アシストスーツによって自由に動かせない箇所を代替することができるようになっています。
テクノロジーを活用して障がい者が経済活動に参加することは、障がい者の生活の質が高まるだけでなく、企業にとっても新たな労働力を獲得することができたり、多様性が広がりアイディアの幅が広がったりと、企業価値の向上にも寄与する可能性があります。
まとめ
この記事では、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の達成に向けて、IT企業が貢献できることについて考察してきました。ICTを活用して、長時間労働の抑制や身体的ハンデのある人の経済参加を促すだけでなく、企業成長を促進することで、間接的に労働環境の改善に貢献していくことができます。IT企業は、すべての大人が正当な条件で労働し、持続可能な経済発展をサポートしていくことができるのです。
(参考資料)
UN:SDGs Report 2021
UN:About the Sustainable Development Goals
UN:Sustainable Development Report
厚生労働省:過労死等防止対策白書
国税庁:民間給与実態統計調査(令和元年分)
(SDGs活動とDX推進シリーズ 記事一覧)