昨今、新聞などで目にしない日はないほど官民で取り組みが進んでいる”SDGs”。
IT企業は、このSDGsの達成に向けてどのように貢献できるのでしょうか?そして、日本企業の喫緊の課題でもあるDX推進との関連性はあるのでしょうか?これらの疑問に応えるべく、「IT企業が取り組むことのできるSDGs活動とDX推進」シリーズとして、6回に分けて考察を深めていきたいと思います。
第一回となる本記事では、SDGsの概要や、企業が取り組む意義、国内外の取り組み状況について説明していきます。
SDGsとは?
SDGs(Sustainability Development Goals)とは、「誰一人取り残さない」持続可能でよりよい社会を実現するための国際目標です。現在人類は、貧困・気候変動・感染症など未だかつて経験していない多くの課題に直面しており、このままでは人類が安定して地球上で暮らし続けることは難しいと予測されています。
地球上での生活を持続可能なものにしていくために、何をどのように変えていくべきなのかを17個のゴールとして示したのが「持続可能な開発目標」=SDGsです。2015年の国連サミットで採択され、国・民間・市民など全てのプレイヤーが協力し2030年までに達成することを目指しています。
企業がSDGsに取り組む意義
経営メリット
地球上で経済活動を営む一員として、企業がSDGsの達成に向けて取り組むことは、ある意味当然のこととも言えます。しかし、企業がSDGsに対応していくことは、慈善活動の範囲に止まらず以下のような効果も期待され、経営面への大きなメリットがあると言えます。
- 企業イメージの向上:信頼度向上、優秀な人材の確保につながる
- 社会の課題への対応:経営リスク回避、地域での信頼獲得につながる
- 生存戦略になる:SDGsへの対応が取引条件になることも
- 新たな事業機会の創出:過去にないイノベーションやパートナーシップを生むきっかけに
(出所:持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド_環境省)
SDGs関連市場規模(予測)
実際に、SDGsに関連して、2030年までに年間12兆ドルの新たな市場機会を生み出すという試算があります。「ビジネスと持続可能な開発委員会」が試算したもので、「食料と農業」「都市」「エネルギーと材料」「健康と福祉」と4分野に限られているため、更に大きな市場の可能性を秘めていると言えるでしょう。
また、目標別の関連市場規模を試算した結果もあります。デロイトトーマツが2017年に試算したものですが、最も金額が少ない目標4でも71兆円の市場規模が予測されており、SDGsに対応することはビジネス拡大の機会になると考えられます。
SDGsの達成状況(世界・日本)
官民ともに取り組みが重要となるSDGsですが、2015年の制定以降、その進捗はどのようになっているのでしょうか?
SDGsの進捗度を測る指標としてSDGインデックスというものがあります。これは、全ての目標が達成された場合に100を示すもので、2020年時点の世界平均スコアは65となっています。2015年の世界平均スコアは約64であり、世界全体で見れば僅かにしか進んでいないことが分かります。
一方、日本単体で見た場合はどうでしょうか?
2020年終了時点での日本のSDGsスコアは約80ポイントで、2015年の約79ポイントから僅かな前進となっています。
国別ランキングでは18位に位置しており、1位〜3位はフィンランド・スウェーデン・デンマークと北欧の国が占め、4位〜17位も欧州勢が占める結果となりました。
SDGs達成に向けた世界の取り組み
SDGsの達成に向けて、世界ではどのような取り組みを行なっているのか、上位を占める欧州と、日本についてそれぞれ見ていきましょう。
日本の取り組み
日本政府は、2016年に設置したSDGs推進本部を中心にさまざまな政策を進めています。「SDGsアクションプラン」では、重点分野を定め推進計画の策定および、実行促進のための法整備や補助金の設置などを行なっています。2020年10月に菅首相が2050年のカーボン・ニュートラルを宣言したことは記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。
また、「ジャパンSDGsアワード」を毎年運営して自治体や企業の取り組みを推進している他、「SDGs未来都市」として選定した自治体には資金面での補助も行なっています。
帝国データバンクが2021年6月に行なったSDGsに関する企業の意識調査(2021年)によれば、約40%の企業がSDGsに積極的としているものの、半数以上の企業は依然としてSDGsに取り組んでいない状況であることが分かりました。
欧州の取り組み
SDGsインデックスで上位を総なめにしているEU諸国ですが、その背景としてEU法の存在が大きいと言えるでしょう。EU法では欧州のすべての大企業を対象としてCSRなど非財務情報の報告を義務付けており、SDGsに取り組まなければ対外向けの報告ができない仕組みとなっています。
更に各国での取り組みも非常に本気度が高いものとなっています。スウェーデンの例をとれば、行政機関・国営企業がSDGsの取り組みを報告する義務があることに加え、いち早くSDGsを活用したブランディングに成功しています。また、持続可能な教育にも注力し、国民にSDGs対応の重要性をDNAレベルで染みついています。
IT企業が取り組みやすい目標5つ
先進諸国を中心に、官民それぞれのプレイヤーが取り組みを進めるSDGs。IT企業は、具体的にどのような貢献の仕方があるのでしょうか?そして、日本の喫緊の課題となっているDXも同時並行的に進めることは可能なのでしょうか?5つの目標について深掘りしていきたいと思います。
目標4:質の高い教育をみんなに
”教育”は、人々が生活の質を改善し社会発展の基盤となるものです。義務教育制度の整った日本でも、不登校や病気などで学校に通えない生徒は多く、相対的貧困に陥るリスクを秘めています。どのような状況に置かれた子どもでも、等しく質の高い教育を受ける環境を整えることは重要です。デジタル技術を活用してどのように貢献できるのでしょうか?
目標8:働きがいも経済成長も
世界経済は、社会的・経済的地位の低い人々の労働の上に成り立っていることは否定できません。低い賃金・劣悪な労働環境にも関わらず生きるために仕方なく行わなければならない人々が多く存在しています。そのような人々を減らし、全ての人が幸せに働きながら経済成長も目指すには、どのような方法があるのでしょうか?
目標9:産業と技術革新の基盤を作ろう
人々の生活の質を高め、持続可能な開発を促進するためには、インフラの整備が必要不可欠です。インフラが整っていないことで、企業の生産性が上がらないどころが、就労すらできない人、教育を受けられない子どもが大勢います。インフラの整備、そしてその後の産業の発展に向けてデジタル技術はどのように活用できるのでしょうか?
目標12:つくる責任 つかう責任
今の私たちの生活は、水・エネルギー・食料といった地球の資源を使いすぎています。このままではそう遠くない未来に資源は枯渇し、人類の存続が危ぶまれる事態にもなりかねません。地球で安定して暮らしていくためには、少ない資源で大きな価値を生み出す仕組みが急務であり、それにはデジタル技術の活用が有効です。
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
幅広い分野にわたるSDGsを成功へと導くためには、政府や国際機関だけでなく、民間企業や市民などさまざまなプレイヤーが協力し合って取り組まなければなりません。IT企業は、どのようなパートナーシップを結び、連携先そして社会全体にどのような価値を与えられるのでしょうか?
(SDGs活動とDX推進シリーズ 記事一覧)